――美容や外見について描かれていますが、このテーマを描くきっかけは?
田房永子(以下、田房):この本を描くために取材で行ってたわけではなく、ただ本当に必死な感じで断食道場やエステに行っていました。その話を編集さんにしているうちに、これを描きましょうということになりました。
――「ESSE」での連載中、どんな反響がありましたか?
田房:私がいろいろやっているのを見ていただいて、50代60代の方からも「私も昔こんな風に悩んでいた」という感想を頂いたりしたそうです。
――様々な経験をされていますが、一番きつかった体験は何でしたか?
田房:エステです。エステティシャンが、すっごく優しくて「すてきなお体ですね~!」ってニコニコしながら2時間くらいかけて私の全身の脂肪を手で揉みまくってくれるんですよ。その間ずっと「運動も食事制限もしなくていいんです! 私が揉んで脂肪落としてあげますからね! おまかせあれ!」みたいな感じで。

なのに、紙パンツ脱いで着替えて帰り支度し終わったら、エステティシャンが眉をしかめて深刻な表情で部屋に入ってきたんです。「田房さんの足のセルライトは真皮まで侵食していて、2~3回のエステじゃ取れません。週2回、40回コースに通っていただかないと…」って回数券の営業が始まりました。断ったら「え!? どうするんですか…!? そんな脚でいいんですか!?」って。
ひどくないですか(笑)そんなこと言わない方が絶対いいのに。
「あ、私の足の色、かわいいじゃん」って思う時があります(笑)
――ひどすぎて笑ってしまう(笑)。作中に「なんだかまるで『正しい体型』というものがあって、『これに近づく努力をしないと死にますよ!』と言われてるみたい」というコマがありましたが、日常的にそういう息苦しさを感じてる女性は多いのではと思いました。
エステで嫌なことを言われてパニックになった自分の気持ちに寄り添うシーンは、非常に田房さんらしい丁寧な描写で、印象的です。本の完成前と後でどんな変化がありましたか?
田房:鏡や写真が以前より平気になりました。見れなくてつらかったし不便だったので、これは本当によかったなあって最近思います。でも自分一人で鏡見てる時と、街のガラスとかに映る自分の姿ってぜんぜん違うんでギョッとするのは常にあります(笑)。でも一人の時に自分の顔を見て「悪くないんじゃない」ってたまにでも思えることで無数の「ギョッ」を乗り越えていけるものなんだなって知りました。
あと、お風呂からあがって足を拭(ふ)いていて「あ、私の足の色、かわいいじゃん」って思う時があります(笑)。セルライトついたまんまだけど、色はいいなって。以前なら、セルライトあるから何もかもダメ、って考え方だったんですよね。でも今は、誰かの足の色と比べてるわけじゃなくて、パっと目に入って「かわいい」と思った自分の感覚をそのまま受け取れるようになった、って感じです。
自分に対する変化と連動してるのか、人がおめかししているとうれしくなって「すてき!」とか「かわいいね」とか口に出して言っちゃうようにもなりました。