ウエストランド 実はボケ/ツッコミが以前と入れ替わっている

ウエストランド ©M-1グランプリ事務局
――では、気を取り直して優勝ネタの解説をお願いします。
<ウエストランドのネタの分析ですね。井口さんに「皆目(かいもく)見当違い!」と言われる覚悟で語ります(笑)。
今回のM-1グランプリでは、過去の決勝進出者がことごとく準々決勝あたりで敗退しました。
あえて名前は出しませんが、本当に“ことごとく”だったので、お笑いファンの方には簡単に何組か思い浮かぶと思います。彼らは準決勝に駒を進めた無名の芸人より、ネタ単体で見たら面白かったのかもしれません。何も知らない宇宙人が見たら、結果は変わったかもしれません。
しかし、去年や一昨年と同じ印象の漫才だった場合、それは同じ評価にならず、少し見劣りしてしまう可能性があります。芸人は、特に賞レースにおいては、進化を求められてしまうのです。
そんななか、2020年に1度進出しているウエストランドがなぜ決勝に進出できたのか?ウエストランドも、「井口さんが悪口を言いまくる」点では、過去と変わった印象はありません。
しかし、今年はそれ以外が進化していました。悪口の印象に埋もれて気付きにくいですが、「ボケ」「ツッコミ」が以前と入れ替わっているのです>
――意外です!早口でまくしたてる井口さんがツッコミだと思いこんでいました。
<今までの井口さんは、河本さんとの会話のなかで、ツッコミとして自虐や悪口を言ったりしていました。しかし、今回の井口さんは、ボケになっています。「あるなしクイズ」という設定のなかで、河本さんの出題するクイズに井口さんがちゃんと答えないというボケをしていました。
井口さんがツッコミで悪口を言いまくっていたときは、ちょっとトゲが強かった印象がありました。ところが今回は、「クイズに正解する気がない」ボケが1枚乗っかるので、それ自体がおかしみを出し、少しだけ悪口がマイルドな印象になっています。
そして、クイズに答えるアクションを入れるので、セリフの行き先が相方の河本さんになりました。悪口の矛先は世間のはずなのに、セリフの行き先は相方。毒の方向が分散し、その点もマイルドさを加味させています。
もっとも、なかなかの内容の悪口なので、マイルドになったのは本当に少しだけですが(笑)。今まで辛かった料理が、ちょっとした隠し味で「辛くて旨い!」に変化しました>
2本連続ネタ披露の状況を見極めて笑いに変えたテクニック

©M-1グランプリ事務局
<また、2本目の冒頭、河本さんの「あるなしクイズ考えたんだよね」というセリフに対して、井口さんが「あー、たまたま大好きなんで」と返しました>
――ウエストランドは1回戦はラストの10組目、そして最終決戦の順番が1番目と、連続して2ネタ披露することに。以前なら2本目に1回戦と似たネタをやるのはよくないと言われていましたが…
<2本連続という状況を「たまたま」という短い言葉を足すだけで笑いに変え、そしてすぐに本題に入っていきました。
もしかしたら、「あるなしクイズ」の説明を入れるなど(1本目は「あるなしクイズ」の例題を出していました)、本来はもう少し丁寧な台本だったのかもしれません。
状況を瞬時に見極めて笑いを取り、会場の空気を逃さないまま本題を進める、素晴らしいテクニックだったと思います。このライブ感を笑いに変えるのが、漫才ならではですね>