『光る君へ 前編 (NHK大河ドラマ・ガイド)』(NHK出版)
物語を書くことに没頭するまひろ。
その物語が人々の心を動かしていく。そして、ついに、まひろが、道長が、一番動かしたかった人の心を動かす。
まひろ(吉高由里子)が「源氏物語」を書き始めたら、どのように話が展開していくのか、楽しみでもあり、少し不安でもあった。
ある意味、「光る君へ」は、まひろが「源氏物語」を書くまでの物語であると勝手に思っていたからかもしれない。
「源氏物語」を書き進めていくまひろ。宮中の者たちもその物語に夢中になっていく。「これは自分の物語だ」と思う者もいたり、シンプルにその物語に魅了される者も。
一条天皇(塩野瑛久)も物語に魅了されている者のひとりだ。まひろから、帝の思いに寄り添って書いた物語だと聞けば、より思い入れも強いものになるだろう。最初はきっと自分の心に近いものがあったからこそ、反発したのかもしれない。それが今ではすっかり虜だ。物語の解釈を作者本人にぶつけるのって、すごく贅沢な時間では。
帝が夢中になっている物語ならば、と「源氏物語」を読み始めた彰子(見上愛)。しかし、彰子には「源氏物語」のおもしろさを理解することができない。一条天皇のような熱心な読者がいるかと思えば、「どこがおもしろいんでしょうか」と曇りなき眼で聞かれるのだから、この時代の書き手は大変である。
しかし、彰子のこの問いは大きな一歩だ。
彰子は自分の思いを表現することが少ない。何も感じていないわけではないし、頭が悪いわけでもない。ただ、自分の気持ちをどう表現すれば良いのかが分からないし、自分が気持ちを伝えたことで相手がどう感じるか、ということにも少し恐れを抱いているようにも見える。
そんな中、彰子は少しずつまひろには心を開いている。そこを逃さず、まひろは彰子に「人の心とは」というのを説いていく。道長(柄本佑)が友人たちと話をしているシーンを見せることで「殿御とはみなかわいいものですよ」と教えてみたり。
それによって、彰子の表情が次第に豊かになっていくのは見ているだけで少し嬉しく感じられる。