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プログラム終了後、娘は一時的に登校に至ったものの、その後しばらくして再び行き渋りを見せるようになった。頭痛や倦怠感を訴え、午前中に起きれない症状が続き、病院につながると起立性調節障害と診断された。
改めてさまざまな支援団体に相談を試みたが、スダチの2回目の利用は見送った。
「私自身が大変だったうえ、娘はうつ病寸前と医師から言われていたので、これ以上スダチのやり方は続けられないと悟りました。入会当初、在学中の高校に行けなくなった際は、①今の高校に戻る、②アルバイトして学費を稼ぎながら通信制高校に通う、③家を出て自立する、という選択肢を子どもに提示するように言われていました。ただ、これ以上娘を追い込むことはできないし、方向性も違うと悟りました。
結局、再び不登校になったのも、それまで無理していた反動が来たのかもしれません。スダチに入会していたときは、私が一生懸命鼓舞していたので、娘もそれに応えようと頑張っていたんでしょうけど、本音では行きたくなかったんでしょう。再登校後もストレスが積み重なり、結果的に力尽きたのだと思います。
再登校にこだわらず、娘の状態を見て早めにプログラムを切り上げれば、病気にはならなかったかもしれないという負い目をずっと引きずっています」(木戸さん)
現在も娘の起立性調節障害は完治していないが、通信制高校で学ぶ日々が続いているという。
スダチのサポートについては否定的な意見も多いが、「デジタル制限により最初はとても荒れた様子になったものの、生活リズムが改善し、子どもが前向きに変化した」と評価する元利用者の声も聞かれた。費用についても、連日のメールのやりとりや、極めて具体的な助言をもらえるといったサポート内容から「内容に見合っており高いとは感じなかった」との意見もある。
医師は子どもに接触しない支援方法、短期間のプログラムに疑問
国立精神・神経センター国府台病院心理・指導部長や、国立国際医療研究センター国府台病院精神科部門診療部長を歴任し、児童思春期精神医学において豊富な臨床経験をもつ医師の齊藤万比古氏は「実際に支援の様子を見たわけではないので明確なことは言えない」と前置きしつつ、スダチの支援方法について下記のように指摘する。
「子どもに接触せず、親がプログラムを実践していることを子どもに知らせないスダチのアプローチは、子どもの主体性をないがしろにしている印象を受けます。児童精神科や心療内科などの臨床現場では、初診で必ず不登校の本人の来院を求めています」(齊藤氏)
スダチは1か月半のプログラムで、正しい親子関係を築いてから、登校を促すよう親に助言をしている。ここで言う「正しい親子関係」とは明確な定義が難しいものの、少なくとも「1か月半という短期間のプログラムで不登校の子どもの親子関係が改善するとは思えません」と齊藤氏は明言する。
「長期化し始めた不登校の場合には、ご両親と一緒に受診や相談にくるケースでも、子どもは、両親が怒っていないと察して安心して本音を語り始めるまでに何か月もかかるのが普通です。そして本音を語れたからといって、子どもはすぐに動き出せるわけではないのです。
その間に両親が焦り始めたら、もう一方の親がその焦りを受け止めつつ、それを子どもにぶつけないようになだめ収めるということを互いに繰り返すことも必要です。そうして時間をかけて、両親も子どもも、徐々に余裕を取り戻していくものです。不登校の臨床経験から私は回復とはそのように起きてくるものだと考えています。
スダチのプログラムは、突貫工事という印象が否めないのが正直な感想です。資料を見ると認知行動療法から着想を得ているようですが、丹念なプロセスを省略した内容に感じます」(齊藤氏)
確かにスダチ公式サイトのブログ(2025年1月14日公開・6月29日更新の記事)にも「メソッドにエビデンスがなく、知識がないのに認知行動療法を取り入れている」との批判をもらうことがあると記載されていた。
「自尊心や他者への信頼感などを破壊し、自己形成を歪める懸念」
また齊藤氏は、家庭内でルールを作り、子どもが守れなかった際に何らかの制限を行うといった手法にも疑問を投げかける。
「デジタル制限はケースバイケースであるものの、食事制限などは心理的負担が大きすぎるといえます。いずれにせよ家庭内でルールを敷いて、それができなければ罰を課すような仕組みは、無理をしてでも学校に行かざるを得ない状況を作り出すため、子どもの親への信頼を踏みにじる行いだと思います」(齊藤氏)
また登校を促すタイミングを見誤ってしまうと、子どもの回復において逆効果になることもあるという。不登校が発生するメカニズムを引き合いに、齊藤氏が説明する。
「登校を促すこと自体は悪いことではありませんが、信頼関係が築けていない段階では逆効果になります。親が主導権を握る形で登校を促すことは、子ども本人の自尊心や他者への信頼感などを破壊し、自己形成を歪める懸念が生まれます。
子どもは自尊心を踏みにじられることで自己否定的になると同時に強い怒りを抱え、自傷行為、親への暴力、もし学校にもどったとしても親への依存の代替行動としてのSNSへの没頭や性的逸脱、あるいは怒りのはけ口としての弱い者いじめに走ることがあります。
不登校が生じやすい思春期は、親離れの進行に伴って友人関係や学校の先生など親以外の大人との関係に夢中になったり、ときには異性との恋愛関係の悩みも生まれたりといったとてもデリケートな年代です。
そうした状態で不登校に陥ると、罪悪感や無力感、落ちこぼれたという挫折感といったネガティブな感情が強まり、学校へ戻ってもっと傷つくことを恐れ、ますます登校を回避するようになります。そんな悪循環に陥るわが子を前に焦りを感じる親御さんの気持ちは痛いほど分かりますが、そんなとき子どももまた学校へ行けない自分を責め、親が無理やり登校を強いるのではないかと恐れながら、学校へ行けない自分を親に許されたいと願うのです。
『子どものために再登校させる』という親の願望の押し付けが、どれだけ子どもの自信や独立心を奪って、子どもの可能性を奪ってしまうか考えてみましょう」(齊藤氏)
不安定な思春期だからこそ、一度ひびが入った親子関係を修復するのは非常に時間がかかる。それを避けるには子どもが不登校に陥っても、焦らずに向き合うアプローチが必要になると齊藤氏は念押しする。
「子どもの不登校は子どもも親も激しく揺さぶられながら、家族の結びつきを微調整しつづけ、家族として再生していく作業に取り組むチャンスです。親として焦燥感に苛まれる気持ちはわかりますが、子どもとの関係を振り返る大切な機会を与えられたと発想を変え、不登校の状態でも、通常通り穏やかな気持ちで子どもと接することをお勧めします。
一般的には、親が子どもを支え育む側面が強調されていますが、子どももまた親を支えているのが親子関係です。そのことを親が自覚すれば、次第に子どもも安心して、進路や学習に関心を示すときがやってきます。そうなって初めてフリースクールや支援学級など、複数の選択肢を提示してあげるのが、適切なアプローチになると考えています」(齊藤氏)