
小中学校における不登校児童生徒数の推移 (文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」<令和6年10月31日発表>より)
スダチの他にも、不登校支援をおこなう民間業者は数多く存在する。
不登校児童は増加傾向にあるため、あえてビジネス的な視点で言うと“市場が拡大”している状況で、民間の不登校支援事業者が次々と現れるのは当然とも言える。
一方で、国内には、不登校支援に携わる公的機関も多い。自治体の教育センターの相談窓口やフリースクールをはじめ、公的支援が多々あるなか、民間業者を利用する親が多いのはなぜか。フリースクールや不登校親の会を主催する、NPO法人schoot代表の内海博文氏が説明する。
「日本が就学義務を採用していることが、もっとも大きな構造的要因だと考えています。端的に説明すると、就学義務とは、保護者がその子どもに合計9年間の普通教育を『学校で』受けさせる義務のことです。
しかし、世界を見渡せば、学校に登校せずとも一定の手続きをとることによって、ホームスクーリングなど学校以外で学ぶことが制度的に保障されている国も少なくありません。親の教育権が大きく認められているアメリカにおいては、例えば家庭学習に費やされた費用を申請することで、所得控除や税控除が受けられる州もあり、通学そのものは必ずしも義務ではありません。
対して日本では、フリースクールに通ったり、家庭で学習を行っても学校では出席扱いと認められないケースも多発します。そのため高校受験が現実味を帯びてくる中学校段階で子どもが不登校になると、保護者は出席日数を気にするあまり、短期間で再登校させたいという焦りに駆られます。
そのうえ自治体には、教育支援センターなど公的な不登校支援サービスが存在するものの、相談を受けた教員などから適切な対応や紹介がなされず、当事者に情報が行き届いていない実情があります。民間業者に関する情報は、『公平性に欠ける』という理由でそもそも紹介しない学校や教育委員会も少なくありません。
その結果、ネット上やSNSで再登校につながるサービスを検索せざるを得ず、検索上位に表示される宣伝力のある民間の事業者に辿り着く構造ができていると考えています」(内海氏)
話を聞いたスダチの元利用者たちは、インスタグラムやYouTubeなどで広告や動画を見つけて入会に至ったと話す。「教育機関は面談予約を取るのに時間がかかる」「医療機関は子どもが通うのを渋る」などと、公的支援につながりづらい悩みを抱えていた中で、オンラインで手軽にサポートを受けられるスダチは魅力的に映ったと話す親もいた。
まずは親自身が焦りを解消しつつ、適切な情報収集を行うのが望ましいと内海氏は助言する。
「メディアやSNSによる指摘が増えれば、民間業者は今後、宣伝文句やキャッチコピーをマイルドにしていくでしょう。サービスの実態は大きく変わっていないにも関わらず、公式サイト上などの表面的な情報だけでは、子どもに適切なサービスなのか見極めが難しくなるはずです。
また、行政が民間の事業者を選別するのにも限界があります。自治体によっては、不登校支援のサービスをリストアップして情報提供を行っていますが、具体的にどの施設やサービスが、どういった子にマッチするかまで提示することは困難です。それゆえ親にとっては、どこが適切な支援をしてくれるのか、その判断は非常に難しい。
一概に、再登校を掲げる民間事業者に問題があるとは言えませんが、少なくとも公的支援や民間サービスに関する情報を集めたうえで、不登校の子どもにどうアプローチするか検討して欲しい。情報収集としては、民間で主催されてる親の会や家族会が望ましいでしょう。主催者や参加者に当事者が多く、事業者が介在しているわけでもないので、フラットな意見交換ができるはずです」
もちろん不登校支援の選択肢が増えるのは望ましいことである。教育機会確保法3条5項では、「国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること」とあるように、行政と民間での連携も推進されている。
その一方で、アプローチを見誤まれば、子どもの人格や親子関係に悪影響が及ぶ懸念もある。教育機会確保法においては、民間団体に対する認可基準や、苦情対応・被害救済に関するガイドラインの整備が明文化されておらず、現時点ではサービスの質にかかわらず、さまざまな民間業者が参入しやすい構造になっていることも課題として指摘されている。
多くの専門家が疑問視するような内容の支援をおこなう民間団体が行政と手を組む可能性も今後ないとは言い切れない状況だ。