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「イヤイヤ期で限界に」母親をやめて海外へ渡った30代女性が語る、追い詰められた“本当の理由”

果たして彼女だけが悪かったのか?

 最初の数か月は、真里さんの両親が子どもを育てていました。しかし、当然ながら真里さんの行動は両親には受け入れられなかったといいます。 「母には『子どもを置いて外国に行くなんて、母親失格』と言われました。父にも『逃げても何も変わらない』と突き放されました。どちらも正論なんです。でも、その“正しさ”があのときの私には一番つらかったんです」  両親にとっては、可愛い孫を置いて家を出た娘の決断など到底理解できるものではなかったでしょう。けれど、真里さんにとっては、あのまま家族の中に留まることのほうがもっと苦しかったのです。 「“母親として間違っている”と責められるたびに、自分でもそう思ってしまって……。でも、誰かに助けてほしいとも言えませんでした。友達に相談しても『稼業も家もあるなんて将来安泰じゃん』『田舎暮らしうらやましい~』と言われるだけでしたね。みんなは“表面上の幸せ”しか見ていない。私が毎日、息を詰めながら生きているなんて、誰にも伝わらなかったんです」

現在は夫と義父母が子どもを育てている

窓際の女性 その後、夫の陽介さんが「家業の後継が必要」という理由で息子を引き取り、現在は陽介さんと義両親のもとで育てられています。真里さんは夫と連絡を取っていないため、子どもとも今は会っていない状況が3年以上続いています。 「夫とは少し前まで離婚調停中でしたが、夫は最初、離婚を認めてくれませんでした。夫や義両親からしたら嫁に逃げられるなんて近所で何を言われるかわからない、恥だったんでしょうね。しかし、親権を譲るのであれば離婚に応じてやるって言われて……夫の身勝手さや都合の良さを痛感しました……」 とはいえ、息子を手放すことに後悔もあったといいます。 「人生でいちばん苦しかったです。母親として間違っていることはわかっています。でも私が戻っても、また同じ毎日が待っていて、息子をちゃんと笑顔で育ててあげられる自信がなかった。だったら、経済的にも環境的にも安定している夫のもとで育ててもらうほうが、あの子のためになるとも思いました」  真里さんは現在、オーストラリアで仕事をしながら、新しいパートナーと暮らしています。真里さんが離婚し、子どもを手放したことは周囲から「母親なのに…」「子育てが不十分だ」と指摘されることもありました。そのため、友人とも疎遠になり、日本にはさらに戻りづらい状況といいます。  一見すれば、真里さんの行動は身勝手に映るかもしれません。しかし、孤立した環境の中で助けを求めることもできず、自分の存在をすり減らしていった彼女にどれだけの選択肢があったのでしょうか。 「母親をやめたい」という言葉は、決して軽いものではありません。それでも、その言葉を口にせざるを得なかった現実を、私たちは無視できないはずです。  真里さんの決断をどう受け止めるか——それは読む人それぞれの中にある、“母親とは何か”“生きるとは何か”という問いに向き合うことなのかもしれません。 <取材・文/結城>
結城
ライター・社会取材系。子育てや家庭問題、現代の生きづらさなど、社会の現実に根ざしたテーマを取材し、読者に考えるきっかけを届ける記事を執筆。
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