入浴と“食事の時間”の関係にも気をつけたいところです。食前に入るべきか、あるいは食後にすべきか迷いがちですが、この点についての医学的な答えは一応出ており、望ましいのは、「食前」とされています。
なぜ食前が望ましいのでしょうか? それは、食後に入浴すると、胃腸へ過度な負担がかかってしまう可能性があるからです。実は私も実家では母から「食事が終わったらすぐにお風呂に入って!」と言われていたため、習慣として食後の入浴を続けていましたが、当時はいつも胃腸の調子が悪かったように記憶しています。やはり胃腸に負担がかかっていたのでしょう。

逆に、食前に入浴できる方であっても、
入浴後30分以上は空けて食事を摂るのが理想的。入浴後すぐは全身に血が巡っていて胃腸に十分な血液がない状態ですから、消化不良になる可能性があるからです。温泉宿でも、まず温泉を楽しみ、少し休んでから食事という流れになることが多いと思いますが、まさにあのタイミングを意識されるといいと思います。
とはいえ、温泉旅行のスケジュール上、食後の温泉になってしまう場合もあるでしょうし、外食が多いなどライフスタイルによっては食前の入浴が難しい方もいらっしゃると思います。その場合は、食後1時間程度空けて温泉に浸かることをお勧めします。
次に「入浴時間」について考えてみましょう。人それぞれ、湯船に浸かる時間は異なりますが、出るのが早すぎると温泉の健康効果が薄くなってしまいますし、逆に遅すぎると、血圧の急変などの温泉事故を引き起こしかねません。
特に温泉では硫黄や食塩などの成分により身体が温まりやすくなっていますから、自宅の風呂と同じ感覚で入浴するのは危険。自分の身体の変化にしっかりと配慮してください。

人間は体温が0.5℃上がると心臓がドキドキと動悸し、それはある種の危険信号ですから、動悸に気がつく前に上がっておくのが無難でしょう。
熱い温泉の場合、1回あたり湯に浸かる時間は10分以内、ぬるま湯であっても20分が限度。1日に数回入る場合でも、
4回までにしてください。
私自身も、温泉好きで全国の温泉地を巡ってはいますが、実は長風呂は苦手です。すぐにのぼせて真っ赤になってしまうので、5分もすると耐えられず出てしまいます。私の両親なども同じく長風呂は苦手ですから、何かしらの遺伝的要因も影響しているのかもしれません。
このように、どれくらいの長時間温浴に耐えられるかは人それぞれの体質によるものですから、いくら温泉愛好家で温泉に慣れている方であっても油断してはいけません。たとえ友人や家族などと一緒に温泉に入っていたとしても、耳を傾けるべきは、ご自身の体調の変化。まわりに合わせることなく湯から上がる出るタイミングを自分で決めてください。
「せっかくわざわざ温泉に来たのだから、長風呂をしたい」という気持ちもわかりますが、体調を崩してしまっては元も子もありません。そういう場合は、1日数回に分けるなどして、温泉を健康的に楽しみましょう。
このように、ただお風呂や温泉に入るにしても、その入り方によって、心身への影響は変わります。自らの体調や、理想とする状態を頭に起きながら、日頃の入浴習慣を考えられるといいでしょう。


一石英一郎氏(撮影/林紘輝)
【一石英一郎先生プロフィール】
1965年、兵庫県生まれ。医学博士。国際医療福祉大学病院内科学教授。日本内科学会の指導医として医療現場の最前線を牽引する一方、伝統医療と西洋医療との知見の融合にも造詣が深い。温泉入浴指導員の資格も有するなど、温泉を活用した健康増進にも精通する。著書に『
医者が教える最強の温泉習慣』
<文/一石英一郎>