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東大生強制わいせつ事件に着想を得た小説『彼女は頭が悪いから』著者・姫野カオルコが語る“嫌な気持ち”とは…

事件を起こした東大生たちの内面は“ピカピカつるつる”

 つばさをはじめ、事件を起こす東大生は自分が優秀であることに圧倒的な自信を持ち、東大ではない人、そして女性を徹底的に見下します。 「どこでも、複数の人間がいるかぎり、序列ってのはできるよ。序列の最上段にすわりたいって、そう思うのを否定するのはおかしいよ」 「女にとっては、結婚は最大のビジネス」 「下心があるのは女のほうなんだよ、東大男子を見るときはね」  そして事件後も、ある一人は「なにが悪いの、俺? 人類に必要とされてる人材なんだけど」と語るなど、5人が5人、その優越意識はまったく揺ぎません。 東京大学、東大安田講堂――つばさや事件を起こす東大生について、「ハートがピカピカでつるつる」と表現していたのが印象的でした。 姫野:美しいじゃないですか、彼ら。美しくて優れている。個体として優秀なんです。だから、つるつるとしてキレイ。本当にそう思います。  ただ、それは諸刃(もろは)の剣でもあって。例えば、洋服には「好感度の高い服」というのがありますが、一方でそれが野暮(ヤボ)ったいのも事実だと思うのです。そういうことです。 ――小説の中でも、「人やものごとのありようというのは、プラスとマイナスの両方に形容できる」というフレーズがありましたね。 姫野:事件を起こした東大生にしてみれば、「俺らが一生懸命勉強していたとき、お前ら、ダラダラとゲームして遊んでただろ」「もっと勉強すればよかったじゃん」と言う気持ちもあると思うんです。美しくて優れている、それでいて嫌な面もあるということです。 ――“ピカピカつるつる”な5人と対照的なのが、つばさのお兄さんです。中高一貫の私立男子校から東大文Ⅰに入り司法試験を目指すも、突如、北海道の田舎町で教師という道を選んだ彼は、登場する東大生の中で一人、異色です。 姫野:彼も最初はつばさ側だったんでしょうけど、挫折をした。挫折って、しないほうがいいのかもしれませんよね。でも、つばさのお兄さんは挫折を知って、変わっていった。彼の存在は私にとっては救いでした。  例えば、この本『彼女は頭が悪いから』は、天(本の上の切り口)の部分が不揃いなんです。製本の仕様でこうなっているんですけど、乱丁だと思って問い合わせる方もいる。本の切り口もキレイなほうがいいのかもしれないけれど、私はこの不揃いの感じがすごく好きです。素敵じゃないですか。

書いている間、ずっと嫌な気持ちでした

階級・格差――つばさらの言動に憤りを感じつつ、自分が格差意識を持っていない! と自信をもっては言えません。 姫野:加害者側の言っていることを、「なに言っているの? 全然、わかんない」と言える人はいないと思うんですよ。そして、被害者の気持ちや言い分もよくわかる。すべてが、自分の中にある。  この本を読むと、すごく嫌な気持ちになると思うんです。なぜなら、自分の中の嫌な部分を見せつけられるから。書いている間、ずっと嫌な気持ちでした。担当編集者、編集長、校正者と嫌な気持ちになってもらい、本が完成して、次は買ったあなたが嫌な気持ちになる番です(笑)。 ――だから、鏡のような“ミラー小説”だと。学歴に限らず、収入や住んでいる町に容姿、着ている服に持っているバッグ、旦那の職業、子どものお受験……。無意識に下にみて貶(さげす)んだり、上に見て妬んだり、大変です……。 姫野:小学校から受験とか、大変だし苦しいよね。子どもを私立中学校に入れている親の86%が経済的に苦しいという回答をしているというニュースも聞きました。住む町にしても、町のブランディング効果をあげようとする人、それを煽(あお)る人がいる。  ただ、例えば、「横浜のどこに住んでるの?」って聞かれて「戸塚区です」って答えたら、「戸塚区だと郊外だね」「ええ? 郊外じゃないですよ~」といったやりとりってあるじゃないですか。普通は、そんな会話で笑い合ったりする。その程度のことだったりするんですよ。  昔だっていじわるな人がいて、いじわるなことをしたりする。私も傷つけたり、傷つけられたりするし、みんな、そう。ただし、限度というものがある。
姫野カオルコさん

姫野カオルコさん

――姫野さんが、自意識が膨らんで妬み嫉(そね)みに襲われたときはどうされるんですか? 姫野:メソメソしますね。でも、今はそんなふうに思うことはなくなりました。年をとると、そういう気持ちはどんどんなくなるなあ。それよりも、血圧とかのほうが全然、大事。脈拍とか、γGTPとか尿酸値とかに比べたら、どうでもよくなる。 ――自意識から逃れられるのなら、年をとるのも悪くないと思えます。 姫野:若い頃は近視眼的になりがちですよね。自分が触れた2~3の情報や経験をもとに「そういうことなんだ」と思ってしまう。その経験だって本当に“たまたま”で、その次は全然違ったかもしれない。でも、若い頃というのはそう思いがちですよね。
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被害者へのセカンドレイプについて
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