エサにバームクーヘンを食べる高級豚をトンカツにしてみた/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」
【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.31滋賀県「藏尾ポーク」】
今回のテーマだが「とてつもなく立派な豚肉」が届いた。まるで高級牛肉のように霜降りの入った厚切りの豚ロースである。
この時点で「優勝」は決まったようなものだが、今後の展開で「予選リーグ敗退」になりかねない。何故なら「調理の必要がある」からだ。
豚肉というのは、どれだけ高級品でも「まずは素材そのままを塩でどうぞ」というしゃらくさい食い方は許されない。つまり生で食ってはならぬのだ。
もちろんこの肉の佇(たたず)まいから、「ちゃんと火を通すことができれば優勝」、「名前が書ければ合格」というZランク高校の入試級の約束された勝利を感じる。
しかし私はこの肉を見た瞬間「トンカツ」だな、と思ってしまった。
やはり絶対美味い豚肉なら、個人的に最も美味いと感じる豚肉料理にして食うべきだろう。
ただ、私は正直言って料理が下手なのだ。それもセンスがないとかではなく理由がわかっている下手さなのだ。
まずレシピ通り作らない、完全に無視するわけではないが「めんどくせえな」と思うものは平気で1,2手順飛ばす、また材料も揃えない。「これはなくても大勢に影響はない」と己が判断したものはないままで作ろうとする。
そして時間が守れない。「火が通ってから」とか「油が熱し終わってから」とか言うのを待てずに次々に工程を進めるし、逆に待ちすぎて、具材を1つ2つ液状化させるのは日常茶飯事だ。
特に揚げ物というのは料理の中でも難しい。外側だけ焦げて中身はレアとか、全体的に消し炭ということが起こりがちだ。
そして料理の下手な奴の特徴は「作ったものが不味い」だけではない。「料理した跡がハチャメチャ」なのだ。特に揚げ物はハチャトゥリアン度が高い。よってうちでは潔く「揚げ物はしない」という方針を取っており、とんかつなどは、油を使わない「エアフライアー」というしゃらくさい器具で作っている。
しかし、うちにも天ぷら鍋はある。「これは油で揚げないと天罰が下る」というものが来た時用だ。
そして今回の肉は確実に「天罰級」だった。よって久々に天ぷら鍋を出し、トンカツを作った。
このロース肉は非常に立派なため、うちにある鍋では1枚づつしか揚げることができない。そして非常に厚いため、気をつけないと「生焼け」もあり得る。牛なら「レア」で押し通せるが豚だとそうはいかない。
結果、上手く出来たとは言い難いが、落雷が落ちてこない程度のトンカツができた。

肉を見た瞬間「トンカツ」だな、と思ってしまった
「これは油で揚げないと天罰が下る」クラスの肉だった
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