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「きれいな自殺なんてない」死にそこねた私と、特殊清掃人が見たリアル<yuzuka×小島美羽>

なかったことにされる遺書たち

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小島さんのミニチュア作品より

yuzuka:ちなみに自殺があった現場には、遺書が残されてあることが多いですか? 小島:私が見たなかでは、半々だと思います。さっきお話したような、突発的に亡くなったのだろうと考えられるお部屋にはないことが多いですね。一方で、身辺整理をした形跡のあるお部屋には、遺書のようなものが置かれてあることが多い印象があります。 yuzuka:厚生労働省のデータを見ていると、自殺の動機が「不明」って、3割近く存在するんですよね。遺書がないってことだと思うのですが、それがすごく不思議で……。小島さんの中で、遺書にまつわる印象的だったお部屋との出会いってありますか? 小島:そうですね……。一度立ち会った現場に、本当になにもない部屋がありました。カーテン、ブルーシート、ぶら下がり健康器、首を吊るのに使った犬のリード、靴、のみでした。洗濯機や冷蔵庫もすべてない状態だったんです。 yuzuka:そこまで何もない状態まで片付けてあるなんて……。 小島:そこ、会社の寮だったんですね。お話を聞いて行くと、2年ほど前から「会社を辞めたい」というお話は出ていたけれど、「残された仕事は責任を持って終わらせたい」と、そのまま働き続けていたようです。そして、仕事を納得できるまで片付けた後、その方は何もない社宅にある自分の部屋で、首を吊って亡くなってしまった。どうして印象に残っているかというと、実はちょっと不思議なことがあって。  現場が社宅なので、依頼をされたのは亡くなった方の会社の上司からだったのですが、「家族は遺品をすべて処理してくれと言っている。遺書も既に渡してある」と伝えてこられたんです。しかし、後日その遺族の方からご連絡があり、「遺品が何もないんですが、何かありませんかでしたか?」と言われました。おかしいぞ、と思いました。会社の方からの伝言と違ったからです。 yuzuka:怖い。どういうことでしょう……? 小島:私たちからは唯一残っていたお靴を送らせていただきました。ただ、そのとき会話した印象から、遺書がちゃんと手元に渡っているというのは、信じがたかった。ここからは憶測ですが、会社でいじめや何か自殺の原因となる出来事があり、遺書にそのことが書いてあったのを読んだ上司が、証拠隠滅したのではないかと思ったんです。その遺書、多分ご家族にわたってないと思うんです。 yuzuka:なるほど……たしかに不自然ではありますね。 小島:それに、これだけ周りの方を気遣い、完璧に身辺整理をされている方が、それでも死に場所に「社宅」を選ぶって、やっぱり何かの意味を感じます。想像の域を出ませんけれど。 yuzuka:そう考えると、もしかすると「原因不明」となっているうちの一定数は、本当は遺書に理由が書いてあったけど、見つけた人が処分してしまったというケースも含まれていそうですね。 小島:あると思います。悲しいですけど。
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小島さんのミニチュア作品より

yuzuka:最後に遺した言葉まで伝わらないなんて……。それを伝えたくて亡くなった方もいるかもしれないのに。それから、お話をしていて思ったんですけど、自殺を考えている方って、やっぱり最後まで他人のことを考えている方が多いなという印象があって。  だって、どうせ死ぬのであれば、片付けなんて考えなくても良いじゃないですか。でも、その方もすべてを掃除して、冷蔵庫まで処分してから亡くなった……。 小島:そうですね。自殺をする方って、真面目で、思いやりのある方が多いんじゃないかなって感じることが多いです。死ぬときにまで、周りの人に迷惑をかけないように配慮をして、他人が苦労しないようにできる限り工夫して死んで行く。  一方で残った人が証拠隠滅をしたり、原因を作った人間がのうのうと生きているところを目の当たりにすると、良い人が亡くなっていき、悪い人が平然と生きていく世の中なんだなって思ってしまうことも多いです。

そこに何があれば救われたのか

yuzuka:実はこの対談のなかでお話したかったトピックに、「そこに何があれば、その人を助けられた可能性があるだろう」というのがありました。小島さんが片付けをする部屋って、それぞれの方が最後に過ごし、最後に見た場所じゃないですか。そこに何があれば、死のストッパーになったんだろうって。 小島:ストッパー、ですか……。 yuzuka:私自身がいつもそういうことを考えるなかで出てくるひとつの答えって、やっぱり「人と関わってほしい」ってことなんですね。自殺を止めるサイトにも「誰かに話してください」っていう文言、よくありますよね。  でも、お話を伺っているうちに、そこで死を選ぼうとしている人には難しいことなんだろうなって改めて思いました。いじめとか、親の問題とか、そういうものが積み重なると、助けを求められる相手がいないわけですから。そこに「誰かと関わってください」って、すごく軽い言葉な気がして……。小島さんのなかで「これがあれば救いになるのかもしれない」というものはありますか? 小島:人にもよると思うんですけど、自殺をした人の部屋って、たくさん本が置いてあることが多いんです。「死後の世界」についての本、宗教の本とか。 yuzuka:宗教……! 小島:はい。だから私は、宗教って救われる可能性がある存在だって思ってます。それに、そういう本棚を見ていると「この人は最後まで生きたくてあがいていたんだな」って思うんです。 yuzuka:宗教って、日本では否定的な方も多いですけど、そう考えたらやっぱり救いとなりうる可能性がありますよね。その教えを学ぶことで、気持ちが楽になるかもしれない。 小島:そうですね。「神頼み」って、やっぱり実際あると思います。それから、ペットっていうのも、ストッパーとしての役割は大きいと思います。 yuzuka:ペット……確かにそうだ! 小島:犬、猫、小動物。なんでもそうですけど「この子は私がいなければ生きていけない」という存在をストッパーにして、死ぬ選択をとらない人は一定数いると思います。 yuzuka:私も犬を飼っていますが、その考えにはとても共感します。「死のうかな」と考えたとき、私が死んで発見されるまで、この子はどう過ごすのだろう。と心配で「残してはいけない」となる気持ちはやっぱりあります。
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孤独死のあった部屋を再現した作品。部屋の隅で猫たちが身を寄せ合っている

小島:人を信じられなくなってしまったら、すがれるのって「人じゃない何か」だと思うんです。神なのか、動物なのか、そのほかの何かになるのか……。 yuzuka:本当にそうです。 小島:なので、思いとどまるストッパーとなる何か、と考えると、そういう「死んじゃダメだ」ってはっと正気にさせる何かだと私は思います。 yuzuka:ものすごく腑に落ちた気がします。ただ、小島さんの作品の中にもあったように、取り残されてしまう動物たちも存在しているわけで……。自分に余裕がない状態の方へペットの飼育を勧められるかっていうと、ちょっと難しい判断ですよね。 小島:そうですね。
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本当に「死のう」と思ったらやってみてほしいこと
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