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「さて、死のう」コロナうつで、発達障害の私がやってしまった夜のこと

“自然と死を選んでしまう自分”に気づく

 私には話を聞いてくれる人がたくさんいることに、このとき気づいた。私は一人ではなかった。ちなみに休診日明けにようやく心療内科を受診できたものの、診察はいつもと全く同じで、行く意味があったのかな? とすら思った。  親には自殺未遂したことを言わないでおくつもりだったが、河童さんの強い勧めで母親に話した。それから、本来ならその月の後半に帰省する予定だったのを前半に前倒しし、5日間、何もせずに実家で過ごした。親は特に気を遣い過ぎることもなく、ゆっくり休ませてくれた。  この経験から、私は双極性障害のうつ状態に陥ったとき、自然と死を選んでしまうことに気づいた。そしてうつ状態で働けなくなったときに備え少しでも経済的負担を減らそうと、精神障害者保健福祉手帳を取得することを決意した。  精神障害者保健福祉手帳も、自立支援制度を申請するときと同じように、医師の診断書を役所に提出すれば取得できる。この手帳は1級から3級まで等級があり、級が上がるごとに受けられる支援が増える。そして、病状が快復したときには返納することもできる。これまで取材してきた発達障害当事者は3級を所持している人が多かった。  しかし、3級は障害者雇用で働く上では手帳があることで有利になることはあるものの、受けられる支援は限られている。ここは、充実した支援を受けられる2級を取得したいところだ。

お守りのように持ち歩いている“緑色の手帳”

女性 歩く このとき、一人ではほとんどのことができない精神状態だったので、先輩文筆家の鈴木大介さん夫妻に役所での手続きを手伝ってもらった。鈴木さんは精神障害についても詳しい。昔は2級は取りやすかったけど今は取りにくくなっている、という事前情報も教えてくれた。手帳の申請から交付までは3カ月ほどかかる。自分は何級なんだろうか。  周囲の人のおかげでだんだんと元気になり、仕事も忙しくなってきた2021年2月、手帳交付のお知らせが区から届いた。役所に足を運ぶまで等級は分からないらしい。平日の午前中に窓口に行くと「精神障害者保健福祉手帳2級ですね」と言われ、緑色の手帳が私の手に渡った。3級ではなく2級が取れた。  窓口の人は都営バスが無料になることとタクシーが1割引になることしか教えてくれなかったが、帰宅後に河童さんに聞くと、携帯料金も安くなることを教えてくれた。鈴木さんからは難しいと言われていた2級が取れてよかったという言葉と共に、確定申告に間に合うか分からないけど所得税が安くなることと、私の住んでいる地域では他にも多くの制度が使えることを教えてもらった。  私は発達障害だけど、自分に合った仕事を立派にこなせているから手帳はいらないとずっと思っていた。自分は大丈夫だ、やればできるのだというマッチョ思考も持っていた。しかし、現実の私はそんなに頑丈ではなかった。  この緑色の精神障害者保健福祉手帳は、今まで無意識のうちに強がっていた自分とお別れをさせてくれた。もらってすぐは通帳などの貴重品を入れている引き出しにしまっていたが「しまってちゃ意味がないよ」と河童さんに言われ、今はお守りのように持ち歩いている。 【前回の記事】⇒V系バンド好きの私が「ルッキズム問題」にモヤモヤしてしまう理由 【前々回の記事】⇒フェミニズム本を作った男性編集者に感じた、“違和感”の正体 <文/姫野桂 構成/女子SPA!編集部 撮影(著者近影)/Karma>
姫野桂
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei
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