「さて、死のう」コロナうつで、発達障害の私がやってしまった夜のこと
“自然と死を選んでしまう自分”に気づく
お守りのように持ち歩いている“緑色の手帳”
このとき、一人ではほとんどのことができない精神状態だったので、先輩文筆家の鈴木大介さん夫妻に役所での手続きを手伝ってもらった。鈴木さんは精神障害についても詳しい。昔は2級は取りやすかったけど今は取りにくくなっている、という事前情報も教えてくれた。手帳の申請から交付までは3カ月ほどかかる。自分は何級なんだろうか。
周囲の人のおかげでだんだんと元気になり、仕事も忙しくなってきた2021年2月、手帳交付のお知らせが区から届いた。役所に足を運ぶまで等級は分からないらしい。平日の午前中に窓口に行くと「精神障害者保健福祉手帳2級ですね」と言われ、緑色の手帳が私の手に渡った。3級ではなく2級が取れた。
窓口の人は都営バスが無料になることとタクシーが1割引になることしか教えてくれなかったが、帰宅後に河童さんに聞くと、携帯料金も安くなることを教えてくれた。鈴木さんからは難しいと言われていた2級が取れてよかったという言葉と共に、確定申告に間に合うか分からないけど所得税が安くなることと、私の住んでいる地域では他にも多くの制度が使えることを教えてもらった。
私は発達障害だけど、自分に合った仕事を立派にこなせているから手帳はいらないとずっと思っていた。自分は大丈夫だ、やればできるのだというマッチョ思考も持っていた。しかし、現実の私はそんなに頑丈ではなかった。
この緑色の精神障害者保健福祉手帳は、今まで無意識のうちに強がっていた自分とお別れをさせてくれた。もらってすぐは通帳などの貴重品を入れている引き出しにしまっていたが「しまってちゃ意味がないよ」と河童さんに言われ、今はお守りのように持ち歩いている。
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<文/姫野桂 構成/女子SPA!編集部 撮影(著者近影)/Karma>姫野桂
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei


