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ピンク映画300本超を撮った女性監督が貫くエロスの信念「自分の欲望も快感も自分で決める」

映画監督・浜野佐知さんは、これまでに300本以上のピンク映画を撮ってきた。1990年代前半の5年間だけでも78本もの作品を監督として作り上げている。ピンク映画界に浜野佐知あり、業界での牽引者である。 ところが96年、彼女に思いがけなく転機をもたらすできごとがあった。東京国際女性映画祭の公式記者会見で「日本の女性監督で、もっとも多くの劇映画を撮ったのは田中絹代監督の6本です」と発表されたのだ。会場で聞いていた浜野さんは自分の耳を疑ったという。
浜野佐知インタビュー202301-2a

映画監督・浜野佐知さん(撮影:亀山早苗、以下同)

「私が撮ってきたのはピンク映画だけど、それがカウントされないなら私は女性監督として存在しなかったことになる。日本映画の歴史に足跡さえ残せない。それだけは我慢できなかった」 だったら映画祭に参加できる作品を撮ってやろうじゃないか。浜野さんの負けじ魂に火がついた瞬間だった。 旦々舎立ち上げから脚本家として浜野さんとタッグを組んできた山﨑邦紀さんから、「作家・尾崎翠」の名前が上がった。独自の文学性をもつが、寡作だったため当時「幻の作家」と呼ばれていた作家だ。だが浜野さんは彼女の『第七官界彷徨』を読んで頭の中に鮮烈な映像が浮かんだという。これを作品にするしかないと決めた。

高齢女性たちの性の冒険

資金集めや、著作権、ロケ地などさまざまな問題をクリアして、98年に『第七官界彷徨~尾崎翠を探して』は完成した。自社制作、自社配給だ。日本では監督に映画の著作権はない。権利をもっているのは制作会社だ。だから彼女は自社制作にこだわる。 この作品は岩波ホールを皮切りに、国内各地で上映された。今までのイメージとは違う尾崎翠の真実が公にされた作品でもあった。海外の女性映画祭でも高い評価を得た。
浜野佐知インタビュー202301-1d

浜野佐知著『女になれない職業 いかにして300本超の映画を監督・制作したか。』(ころから)

パリ日本文化会館で上映されたとき、彼女は次は高齢女性のセクシャリティをテーマにした映画を作ると口走った。 このとき、頭の中には『百合祭』という桃谷方子さんの小説があった。69歳から91歳の女性たちがひとりの老ドンファンを巡って性の冒険に繰り出す物語は、浜野さんの「女の性を女の手に取り戻す」にピッタリだった。この作品は国内111カ所、海外では24カ国58都市で上映されている。

隠しきれない色香、濃縮されたエロス

近作の『雪子さんの足音』(原作・木村紅美)では、主演の吉行和子さんの「とんでもないバーサン役をやりたい」という声に応えた。 アパートのオーナーである雪子さんと間借り人の女性の過剰な親切と好意に息がつまりそうになる男子大学生・薫が当時を振り返るところから、この映画は始まる。70歳を越えてなお強烈な欲望を心の底に秘めながら謎多き雪子さんには、隠しきれない色香が漂っている。そして雪子さんが足の爪を切ってもらうシーンでは誰もがぞくっとする濃縮されたエロスが匂い立つ。 こうやって紡ぎ出してきた一般映画は6本となり、田中絹代監督に並んだ。あのときの悔しさをバネに、「女性監督としていちばん」になったのだ。 テーマは違っても各映画に女性の生き方、性のあり方などが丹念に描かれている。まさに浜野さんにしか撮れない映画ばかりで、女性たちは映画を観ながら、自分の生と性のありようを考えさせられる。
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女性たちよ、「気持ちいいフリ」はするな!
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