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「可哀想って決めつけないでください!」怒る若者と対話も。『宮本から君へ』の鬼才が放つ“欲望”をめぐる今への問い<漫画>

大喧嘩したからと言って全面戦争になるわけじゃなく…

――1巻2巻を通して、特に力が入ったシーンはありますでしょうか。 新井:結構あるんだけど、一番力いれて描こうって思ったのが、2巻の終わりの海の回。締め切り間際に謎の高熱が2日間くらい出て、雨の中検査に行ったらコロナでもインフルでもなくて、ただの過労だった。でもあの回は楽しいって思えた。主人公2人の関係性をなんとなく馬が合わない程度に書いていたけど、冬実が夏菜に噛みつく場面をどっかでやりたいと思ってずっと大切にしていた。やっとやれたのが、2巻のラストだった。 ――あの後、2人の関係性は変わっていくのでしょうか。 新井:大喧嘩したからと言って全面戦争になるわけじゃなく、スルーする。でも日常って結構そうでしょ。 あと、個展で冬実が罵倒したアーティストのしずちゃんが、実はM男さんで常連だったっていう形でまた出てくる。描いててむちゃくちゃ楽しかった。「後からM男さんとして出したいんだけどダメ?」ってゆみこさんに聞いたら、「全然あります」と。 実際に、SM関係のイベントで別の仕事の繋がりの人と偶然会っちゃったことがあるって。お互い気まずいから、目が合ってても「ああ、どうも」って感じで。「まあ、こういうのに割と興味あるんですよねー」って。さっきまでヒィヒィ言ってた人が(笑)。その後、その人からの仕事が増えたって。

人間関係をなんとかやろう、結構楽しいよって伝えたい

――いい話! 新井:2人の関係性に第三者が入りこんでくることで、また別の化学反応が起きる。当事者同士はギャーッと必死になってるけど、他の人が介入することによって、違う動きや流れができるでしょ。 『SPUNK‐スパンク!‐』では、気が付いたら人間関係ばっかり描いてる。コミュニケーションとか人間関係を構築するって、今のこの世の中ですごく大きいことだっていうのは最近描いてて見えてきた。人間関係なんとかやろうって。結構楽しいよって伝えたい。 ――20年引きこもっていた新井さんがそう言うと説得力があります(笑)。 新井:ペニバンの話だって、俺一人で考えてたら「マジかー」なんてセリフ出てこない(笑)。 ――これから初めて『SPUNK‐スパンク!‐』を、あるいは新井英樹作品を読む女性読者に、なんて言って勧めますか? 新井:なんだろう。でも俺の漫画を読んだことない人にとっては、入口として一番読みやすいかもしれない。 清水:今回は、SMが題材になっているものの、好きという気持ちを体現したり避難場所になってるのがたまたまSMなだけで、それがアイドルだったりゲームだったりする人もいるだろうし、好きなものの内容は違えど、共通するものがある。好きなものを好きって言って楽しむという方に読んでいただきたいです。 新井:初・新井英樹は、ぜひ『SPUNK‐スパンク!‐』で(笑)。 ==========
新井英樹 参謀:鏡ゆみこ『SPUNK - スパンク! - 1』ビームコミックス KADOKAWA

新井英樹 参謀:鏡ゆみこ『SPUNK – スパンク! – 1』ビームコミックス KADOKAWA

新作『SPUNK‐スパンク!‐』で描かれているのは、「切実と滑稽(こっけい)」の世界。しかし、「切実と滑稽」という表現はSMだけに限らず、懸命に生きる人全てに当てはまります。登場人物たちのセリフや表情に胸を打たれるのは、「面白いなあ、人間って!」という作者の人間への純粋な感動が、一コマ一コマから滲(にじ)み出ているからかもしれません。 SMの「スパンキング」を連想させるタイトルですが、SPUNKには「勇気、気力、快活さ、活気」という意味があるのだとか。過去の新井英樹作品に慣れ親しんできた方も、初めて読むという方も、作者のエールを感じ取って欲しいと思います。 ©新井英樹 参謀:鏡 ゆみこ『SPUNK‐スパンク!‐』ビームコミックス KADOKAWA <文/藍川じゅん>
藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。
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