
恐怖を具体化しているのは、彼らの不倫関係だけではない。もうひとり、恐ろしくこじらせた人物がすでに登場している。「スーパーすずらん」の従業員専用の通用口にたびたび現れて、まるで捨て猫みたいな表情を浮かべる、那須川ハルキ(櫻井海音)だ。
ハルキは深愛に優しく声を掛けられ、すぐに好意を抱く。彼女が自販機でミルクココアを買ってくれると、それを毎日愛おしそうに飲むようになる。第2話では高校生活に問題を抱えるハルキにスポットがあてられる。
ハルキの後ろ姿が映り、手持ちカメラの揺れが彼の心の不安定さを伝える。彼はひたすら繰り返す。「会いたい。深愛と一緒にいたい」。家に帰るとそこはゴミ屋敷寸前。弁当をミルクココアと食べながら、「会いたい」と再び繰り返す。
ハルキは夏生の息子なのだが、彼の存在がここからどうドラマに絡んでくるのか。ああ、ハルキもまたヤバい遺伝子を受け継いでいるということなのか!?
息子の話題で思い出すのが、ハルキを演じる櫻井海音は、国民的人気グループ「Mr.Children」のボーカル桜井和寿の実の息子という驚き。2019年結成のロックバンド「インナージャーニー」のドラマーとして活躍する彼は、最近では俳優活動も目立ってきている。
ハルキの腕や脚をよく見ると、病んだ内面とは裏腹に外見は結構がっしりしている。ドラマーは体力が要るため、身体が大きい人が多い。
そうした持久力を武器に、『泥濘の食卓』のハルキ役では、大胆不敵な演技を繰り出す。久しぶりに高校に登校する場面は、さすがドラマーのリズム感だなと思う演技で、なかなか迫力がある。