Entertainment

賛否両論の日曜劇場、西島秀俊が体現した”リアリティ“よりも大切なコト

西島秀俊だから許してしまう

 以来、俊平は指揮者を辞めてしまい、5年後、彼は一時帰国する。響と息子・海(大西利空)と再会し、フランスに出張する妻・志帆(石田ゆり子)に代わり、家事、洗濯、食事作りに励む。でも音楽以外、この人には何もできない。  海にもポンコツ呼ばわりされる。特に料理は朝も夜もひどい有り様。なるほどな。世の中では指揮者はこんなに“音楽バカ”なイメージなんだなと思った。現実のマエストロと呼ばれる人たちは、当然手先が器用なので、むしろ料理はプロ級の腕前の人が多いのが実際のところ。  確かに西島さんがマエストロを演じるなら、史朗さんが特に料理上手だったこともあり、今回は料理下手な方が面白い。やっぱりこれも西島の佇まいだからこそ納得させられ、許してしまうのかも。

『のだめカンタービレ』以上の画期的な音楽ドラマ

 帰国した俊平に舞い込んでくるのが、静岡の市民オーケストラ「晴見フィルハーモニー」の指揮者就任の仕事。もちろん引退の身の俊平は断ろうとするのだが、一応リハーサルを見にやってくる。  コンサートマスターの近藤益夫(津田寛治)が指揮するベートーベン『交響曲第5番』は速いテンポで恐ろしくバラバラな演奏。  マエストロが自分たちの演奏を聴いていると思うとさらに上がってしまう。団員全員の心の声が漏れ聞こえる。なんだか楽しい。なんで? 宮沢氷魚、玉山鉄二など、団員たちのキャラクターが底抜けに愉快な仲間たちに見える。  まさにユニークな音大生たちの日常を豊かに描いた『のだめカンタービレ』と精神面ではどこか通じるものがある。  見かねた俊平が指揮台の近くで、両腕を広げる瞬間、西島秀俊が神がかった。あんなに危うげだったのにこのときばかりは、世界的なマエストロにしか見えない。鳥肌ものだった。西島秀俊が指揮者役としてどんどん引き立ってくる。  本作をれっきとしたクラシック音楽の観点から厳しく見つめると、リアリティは感じられない。それでもなお、この作品には特別な力強さを感じる。  むしろリアリティのなさが魅力の本作。ある意味、『のだめカンタービレ』以上の画期的な音楽ドラマなのではないだろうか? すくなくともそのポテンシャルは十分あるように思う。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ