夫の浮気が発覚したのは1年ほど前。
娘が偶然、繁華街で女性と腕を組んで歩く父親の姿を目撃してしまったのだという。
「娘は夫にいろいろ質問したそうです。離婚するつもりなのか、私たちの学費はどうするのか、と。そういう一連のことはあとから娘に聞いたんですけど、
浮気されている妻の私はけっこうぼんやり生きていました(笑)」
ただ、夫が外泊した日があり、浮気はバレた。下戸の夫が「商売仲間と飲みに行って酔いつぶれた」という言い訳をしたときに、あまりに嘘っぽいと思ったのだ。結婚してから一度もなかったことが、そう簡単に起こるわけもない。
「女の人がいるんでしょと言ったら、『なりゆきでつい』って。
その女性が恋人にふられて慰めていたら迫られて、つい深い関係になってしまったということでした。
『抱きつかれて、何もせずに帰すことができなかった』と夫は言うんだけど、そこが夫の甘いところですよね。それで彼女がますます悩む結果になるかもしれないのに。さすがに私も、
この人とは一緒に暮らしていけないと思って、今は顔を見たくない、店で暮らしてと追い出したんです」
店の2階は狭いながらもひとりで暮らすには充分なスペースがある。夫は身の回りのものを車につめて出て行った。高校生の長女と長男は笑って見送ったという。なぜかこの一家、深刻にならないのだ。ただ、
イツコさんは本気で離婚を考えていた。
「子どもたちはよく夫に会いに行っていたようですが、私は
夫がいなくなったことで、実は自分が今までけっこう我慢してきたのかもしれないと気づいたんですよね。女性にヘラヘラする夫を野放しにしてきたし、そういう男だからしかたがないと思ってきたけど、案外、私はそれがいやだったんだ、と。
心の奥底では、私だけを見つめてくれる人がほしいと若いころから思っていたのかもしれない」
子どもたちからはときどき夫の様子を聞いていたが、イツコさんは会う気になれなかった。近いところにいるのに、夫とは心が離れたような気がしていた。