松本穂香「涙が止まりませんでした。感情を揺さぶり続ける95分」|映画『いつかの君にもわかること』
数々の映画やドラマに出演している、若手注目株の女優・松本穂香さん。大の映画好きでもあるという松本さんが、話題作『いつかの君にもわかること』について語ります。

今回、私がご紹介させていただく作品は、『いつかの君にもわかること』です。この映画は、あるシングルファーザーの家庭を描いた物語。父のジョンは33歳。窓拭き清掃員として働きながら、4歳の息子のマイケルを男手ひとつで育てています。
そんな2人の何げない日々を淡々と描きつつ、緩やかな日常のトーンを止めないまま、物語は衝撃的な展開へと続いていきます。その日常の中にときどき感じる違和感。「あれ?」と思ったときには、その衝撃のあまりの大きさとともに題名に込められた意味がわかり、涙が止まりませんでした。
観ている私たちに考える隙を与えないほど、こちらの予想を裏切り、感情を揺さぶり続ける95分間でした。朝がやってくれば、また夜が来て、明日が来る。時間は止められない。何が起きようと進んでいく。
先ほど書いたとおり、この映画は淡々と親子の日常を描いています。ジョンはマイケルに絵本を読んで寝かしつけ、朝ごはんを作り、幼稚園に送る。その繰り返しの毎日。そんな日常の中で、4歳のマイケルは父の姿を見ながら世界を知り、毎日少しずつ成長していきます。
明日も明後日も、その1年後も、マイケルは確実に成長していく。そして、4歳のマイケルには理解しきれないことも、その成長と共にわかる日が来る。物語が終わりへと近づくとともに、その事実が重く、辛く、温かく、のしかかります。最後に残ったものは諦めでも、悲しみでもなく、ただただ大きな愛だった。だんだんと変わっていくジョンの表情が、今も私の中に残り続けています。
「……ん? 結局どういうお話なの?」と気になってくれた方は、ぜひ映画を観ていただきたいです。言葉や説明はいらない、そんなふうに感じられる映画なんじゃないかなと思います。じゃあコラム書くなよ~! って感じですが!
ぜひたくさんの方に観ていただきたい、心からそう思う映画でした。
●『いつかの君にもわかること』
配給/キノフィルムズ イタリア、ルーマニア、イギリス合作映画。『フル・モンティ』のプロデューサーでもあるウベルト・パゾリーニが監督・脚本。©2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
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<文/松本穂香>
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松本穂香さん
題名に込められた意味に、涙が止まりませんでした
言葉や説明はいらない、とにかく観てほしい映画
松本穂香
1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年『風に立つライオン』で長編映画デビュー。2017年連続テレビ小説『ひよっこ』に出演して注目を集め、2018年にはTBS日曜劇場『この世界の片隅に』で主演に抜擢。2023年、映画『“それ”がいる森』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2024年10月期月9ドラマ『嘘解きレトリック』では鈴鹿央士とともにW主演を務めた