
「異性のグループがいない環境で性、ジェンダーを学ぶことで、共学校とは違う何かが起きるのではないか、と考えて取材をはじめました。いま、特に私立の中高一貫校では学校説明会などで、STEAM教育(※)やグローバル教育に注力しているとアピールされることが多い。すなわち、経済競争のなかで勝ち組になるスキルを教育をします、という意味です。
僕は、これからの時代を生きる子どもたちに本質的に必要なのは、競争をしなくても済む社会を作ろうという感覚だと思うんですよ。そのために力を入れるべきは、市民教育。そこに主権者教育や環境教育、それからジェンダー教育が含まれます」(おおたさん)
※STEAM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもので、科学的知識や論理的思考力に加え、創造力や表現力などを伸ばすための教育
特に、性別役割の価値観が根強く浸透した日本社会では、学校教育のなかでジェンダーについて学ぶ必要がある、とおおたさんは断言する。

ではそこに「男子校」という枠を設けたときに、何が見えてくるか。現在、男子校は高校全体のうち約2%で、全国で100校もない。いってみれば、特殊な環境。しかし、その特殊性に目を向けることで、全体像が見えてくることもある。
性教育、ジェンダー教育は、男女一緒に受けるのが理想だとする風潮があるが、現実はそうでない。「児童が男女一緒に生理を学ぶ」などの取り組みがメディアで取り上げられるのは、これがいまだ主流ではないからだ。
そして、男子校という環境はこの理想からほど遠いことになる。ここで「性教育は本当に男女一緒がベストなのだろうか」という問いが浮かび上がってくる。
「思春期の子どもたちには『コレ、間違ってるんだろうな』と思いながら本音を誰かにぶつけてみる、ということがよくあります。社会の常識もわかりつつあるけど、それに対する反発を自分のなかに抱えている。それを言語化し、相手から『それは違うよ』といわれて、頭ではなく体験として納得する。または、口に出した瞬間に『あ、これ違うな』と自分で気づく。こうした体験って、思春期においてものすごく重要です」

おおたさんは、灘高の授業でもそんなシーンを目の当たりにした。
「生理について話し合っているとき、男子生徒から言葉の端に若干の思い込みが表れている発言がありました。これも言った瞬間に、彼らは気づいていたようです。失敗といえば失敗ですが、中高生の時期はトライ&エラーを繰り返しながら成長していくものだし、そこから、『それ違うんじゃない?』『みんなで話してみようよ』と議論を広げることもできます。
ただ、クラスに異性がたくさんいる環境では、まず本音を口にするのをためらうし、言った瞬間に総スカンをくらうかもしれない」