Eさんの得意なターゲットは「女好きの売れないバンドマン」だという。しかし、ライブの打ち上げに潜り込むことはできなかったので、今回は居酒屋から渋谷の広いスタンディングバーに移動し、
「声をかけられる」テクニックを実践してもらうことにした。
ナンパ目的・ナンパ待ちと思われる若者で溢れる週末のバー。店内は大盛況で、オーダーするだけでも一苦労だった。
「1人で飲んでる人よりも、グループでいる人の方が狙いやすいです」と、フロアを見渡しながらEさんは言う。

「
その中でちょっと退屈そうにしてる人を狙うと、より効果的です。後は、目は合わせすぎないことですかね。警戒されてしまうので。猫に近づく時と同じです(笑)」
Eさんの視線が、30代後半くらいの男性3人組の1人に向けられた。
クセのある髪に、黒縁メガネ。そして、濃い髭。明らかにアーティストっぽい風貌だ。盛り上がっている他の2人に比べておとなしく飲んでいたが、
Eさんの視線に気づいたらしく、ソワソワし始めた。仲間たちと積極的に話し出し、たまにEさんをちらりと確認する。その間、
Eさんはニコリともせず、男性とその周辺を見つめ続けた。
見ず知らずの男女が、離れた場所から視線を送り合っているのは、なんともいやらしい光景だ。
男性が席を離れてトイレに向かうと、Eさんもスッと席を立つ。数分後、トイレから戻ってきた2人が笑顔で会釈していた。得意の肩タックルが効いたようだ。しかし、せっかく話すきっかけを掴んだのに、Eさんは男性と別れて元の席に戻ってきてしまった。「いいんですか?」と聞くと、
「大丈夫です。話して、泳がせて、また話すというのを繰り返すと、向こうから連絡先を聞いてくるので」そう言って、Eさんは小さく笑う。しばらくすると、その男性のグループから「この後一緒に飲みませんか」と誘われた。5人で居酒屋へ行くことになり、Eさんはお目当ての男性とLINEを交換していた。
すべて彼女の思惑通りだった。