私と待ち合わせしていた時と同じように、ガードレールに腰掛けて、1人で酒盛りを始めると、さっそく50代くらいの酔っ払い2人組が、Kさんに声をかけた。二言三言会話し、Kさんは笑顔で手を振った。

ガードレールに腰掛け獲物を狙うKさん
彼女曰く、「ナンパしてくるおじさんは、成功体験が少ないせいか、ちょっと反応するだけでガツガツするので好きじゃないですね。
自分の要望ばっかりで、こちらの話は聞いてくれないことが多いです」。
しばらくして、Kさんがスッと立ち上がった。彼女の視線の先で、30代前半くらいの眼鏡のサラリーマンが、スマホの画面を見ながら足早に歩いている。タクシー乗り場へ向かうようだ。
Kさんは、ふらふらとその男性近づいていき、突然
「もう帰っちゃうのー?」と、話しかけた。
「えっ!? あっ、はい……えっ?」
「私、アイス食べたい! アイス食べようよ」
「ア、アイス?」
Kさんは、ニコニコしながら話を勝手に進めてしまう。男性は当惑しつつも、Kさんのあまりの強引さに苦笑していた。
「いやいや、俺、帰らないと……」
「いいじゃん、どうせもう電車ないんだし。一緒に食べようよアイス」
「アイスってなんのアイス……?」
「コンビニで売ってるやつ!」
歌うようにご機嫌に話すKさんと、困りつつも満更でもなさそうなサラリーマンは、コンビニに向かって歩き始めた。その間、ほんの数分。まさしく電光石火だった。
Kさんは、本当にコンビニでハーゲンダッツを買ってもらい、サラリーマンにお礼を言って別れたという。「以前だったら、『ホテルで一緒に食べようよ!』と誘って、連れ込んでました(笑)」と、Kさんは笑う。